Frequently Asked Question in Japanese

いただく質問をこちらにまとめました

増感型熱利用発電に関して

「熱源に埋めるだけ」でいいの?

「系全体を考えると」熱流がなければ発電しませんのでこちらの表現は物理化学的には正確ではありません。が、使用上は、我々の電池は恒温槽内に設置して発電しています。

 本系では、熱源からの熱流により半導体で熱励起電荷が生成し、イオンが移動し、化学反応が生じ、電流が生成します。設定温度で全反応が完全に平衡に到達したときに発電が止まると松下は考えていますが、最近では「発電は止まらなくても良いのでは」というご意見を熱の専門家からいただくこともあり、松下自身も非平衡熱力学を学びながら本系に取り組んで参りたいと存じます。今後の研究の進展をお待ちください。

 

ただし発電が止まった後、回路のスイッチを切ると、対極での化学反応が生じなくなり、系は別の平衡状態へと移動します。この状態を平衡状態offといたしますと、この平衡状態offは先の発電が止まった時の平衡状態とは異なりますから、もう一度発電が出来るようになります。(Journal of Materials Chemistry A, 2019, 7, 18249-18256.)

(2019.9.6.記載)

どのくらいの電力が取り出せるの?

半導体内に生成する熱励起電荷量はFermi-Diracの式に従い、たとえば80℃の1 cm3のGe半導体内には2.4 x 1013 個の熱励起電荷が生成し、室内の1ルクスの光子数4 x 1011 個/cm2(波長555 nm単色光として計算)よりも多く、さらには照射「面」で励起される光と違い熱伝導「体」として励起されるため、その励起電荷数は太陽電池を越えます。

 これまでに、80℃での液晶の作動、LEDの点灯なども報告され(J. Mater. Chem. A, 2019,7, 18249-18256)、単セルで最長4カ月の連続放電も確認されている増感型熱利用発電。2020年4月現在、最高10 microW/cm3の出力が確認されているため、もしも現在稼働している原発総面積7.41 km2の地下60℃~100℃域400 m厚に一面にSTC設置した場合の総出力は1,415万kWと、なんと現在の稼働中の原子力発電所総出力913万kWを越えるのです。

 こんな風に「埋めて」使う発想が出せるのが、増感型熱利用発電の特徴と言えます。

熱で電子が励起されるの?

「熱のエネルギーは80℃だと 約0.03eV なので半導体のバンドギャップを越えられない」とお考えになるかもしれません。しかしこれは、電子を「粒」として考えた場合です。

 半導体の中で、たくさんの電子は波として捉えられ、フェルミディラック分布に則って励起されています。たとえば今お使いのPCには半導体がたくさん入っていて電子が動いているのですが、その動いている電子は、半導体内のドープ準位から伝導帯へ室温で励起したものです(絶対零度では励起電子ゼロです)。

(2019.9.6.記載)

半導体のpn接合だけでも熱で発電できるの?

普通はできません。半導体を接合させるとフェルミ準位が一定になるからです(「半導体デバイス入門」(数理工学社)のp.263が参考になります)。

 我々の系で発電できるのは、電極/電解液界面で酸化還元反応が生じるからです。導線だけでは電気は流れませんが、導線の片方を電池につなげば導線に電子が流れるようなイメージです。

(2019.9.12.記載)

一定温度での発電はありえないんじゃないの?

化学反応が自発的に生じる場合(ΔG<0)にはあり得ます。活性化エネルギーとは溶媒の配向エネルギーであり、どちらに化学反応が進んでも、必ず消費されるエネルギーだからです。またこのご質問は、下記の「セルの温度は下がるのか?」に関係する重要なご質問です。なお我々は、本電池の化学反応サイクルが電解質内で自発的に生じるかに関しては、増感型太陽電池の議論がそのまま利用できると考えています。

(2019.11.6.記載)

熱で発電するとセルの温度は下がるの?

非常に難しい問題です。我々は完全断熱系を組んで外部へエネルギーを取り出すのであれば内部の温度は冷えていくと考えており、現在測定系を構築しているところです。ですがそもそも、化学反応・電流発生が生じている場合にそのような単純な熱力学的描像でよいのか、非平衡熱力学の方々に教えを請いながら解き明かしていきたいと考えています。

(2019.11.6.記載)

何を学んだらいいの?

あなたが物理系でしたら、まずは

柴田直「半導体デバイス入門」(数理工学社)をお勧めします。

そしてその後、

宇佐美徳隆、石原照也、中島一雄監訳「太陽電池の物理」(丸善出版)を読むことをお勧めします。この本はPeter Wurfel "Physics of Solar Cells"として英文であれば無料でウェブに公開されています。

 

あなたが化学系でしたら、もし手に入るなら、

坪村宏「光電気化学とエネルギー変換」(東京化学同人)をお勧めします。

かつて藤嶋昭先生が光触媒を発見された時、「酸化チタンが溶けているだけだろう」と信じてもらえなかったそうです。そこで東京大学の先輩方は、光電気化学の学理を立ち上げられました。坪村先生の御本は、その学理の立ち上げの中で生まれたと伺っています。先人の息吹を感じられる名著です。

 

そして非平衡熱力学を軽く学ぶため、

吉川研一監修「ダイナミックな現象を科学する」(産業図書)をお勧めします。平衡熱力学しか知らなかった貴方は、きっと「生」というものを知ることになるでしょう。

 

最後に、色素増感型太陽電池の論文や総説を読んで下さい。最低限必要な知識はそれだけです。実験の仕方も、当研究室に来て下さればお伝えします。エネルギー問題の解決に取り組む仲間が増えることを、とても嬉しく思います。

(2019.9.27.記載)